新型コロナウィルス(COVID-19)によって、臨床試験にはどのような影響があるでしょうか?

COVID-19の世界的な流行の中で、製薬およびバイオテクノロジー企業は感染拡大の破壊的な影響を実感しつつあります。

COVID-19の製薬業界への影響は刻々変容しています。本考察は、202043日現在の状況に基づいています。

パンデミックへの対処に医療リソースが回され、患者も治験実施施設に行きづらい、または行けない状況、さらに医薬品サプライチェーンの混乱の懸念も高まる中、ほとんどの企業は通常の治験、施設ベースでの研究を継続できない状態です状況は日々変化し続けていますが、現在までにいくつかの大手製薬会社が、COVID-19に伴う臨床試験上の困難に、少なくとも短期的にはどのように対処していくつもりなのかについて明らかにしています。

新たな臨床研究は延期し、大半の進行中の臨床研究への被試験者登録を一時停止

治験責任医師が研究プロトコルの遵守を実証できる場合、現在の治験実施施設での新規患者の登録を許可

4月中旬まで臨床試験を新たな医療機関で実施しない

生命にかかわる状態で治療の選択肢が限られている被験者への臨床試験以外について、新たな試験への被試験者登録を延期

ざっと見たところ、初動対応としては、新たな臨床試験の開始の延期、またすでに進行中の試験では新しい被験者の登録停止が多く見られます。進行中の研究にすでに参加している被験者がどうなるかについては、はっきりと定められておらず、混乱が生じるケースも多いかもしれません。これまでに発行された企業のガイダンスのほとんどは、今後の4〜6週間を想定したものですが、少なくとも夏の間はパンデミックによる大幅な混乱が予想されるため、今後数週間のうちに、臨床開発に関するさらなる決定がなされると予想されます。

医療機関および規制当局が臨床試験実施に関して発出しているガイダンスにはどのようなものがありますか?

FDA(アメリカ食品医薬品局)とEMA(欧州医薬品庁)はいずれも、COVID-19パンデミックの最中の臨床試験実施に関する製薬会社向けの最初のガイダンスを公開しており、そこでは被験者の安全がすべての検討事項において最優先されています。具体的には、被験者の診察をバーチャルで行うことや、治験薬や治験実施施設にアクセスできなくなった被験者には追加的な安全性モニタリングを提供することなどの措置が含まれます。FDAとEMAは、臨床試験は今後何週間、何ヶ月にわたってCOVID-19の影響を受けるため、今後臨床試験プロトコルの変更が行われる可能性が高いことを認めていますが、将来の治験申請の審査にどのような影響があるかは明らかではありません。

FDAとEMAによって提供される一般的なガイダンスとは別に、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、欧州医学腫瘍学会(ESMO)、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)などの医療専門家協会も、パンデミック中の臨床研究の適切な実施に関し、メンバーに情報を提供しています。これらの推奨事項は、大体においては規制当局によるガイダンスの内容を反映していますが、同時に特定の疾患領域に関連する重要なコンテキストも提供しています。それには、緊急ではない診断およびスクリーニング検査の制限、被験者への電話による安全なフォローアップ診療の実施、治験のスポンサーの協力を得て研究用医薬品の被験者への直接送付を手配する際の推奨事項などが含まれています。

医学会からの推奨事項に加えて、個々の病院、学術センター、および地域の医療クリニックなども、独自の個別の臨床ケアガイドラインを定めており、それぞれ個別の被験者スクリーニングおよび検査プロトコル、ポリシーと手順、および管理ツールと臨床医ツールを定めています。どのガイドラインでも共通なのは、患者に利益をもたらす可能性が高い臨床研究への被験者登録の制限を回避することです。医療システムへのパンデミックの負担が増加するにつれて、最終的に臨床研究がどの程度優先されるのかはまだはっきりしていませんが、短期から中期的には、試験実施施設側が臨床試験への参加について、従来よりもはるかに厳選するようになることが予測されます。

パンデミックの最中の臨床試験にはどのようなことが起こり得るでしょうか?

ほとんどの製薬会社は今後数週間にわたって新たな臨床試験の開始を控えると見込まれていますが、保健当局は今後18〜24か月にわたって複数の混乱の波を予想しているため、多くの製薬会社が、より精細な緊急時対応計画を策定する可能性があります。パンデミックのため、戦略上の理由で、または実施施設側が治験案件を厳選するようになったことで、中止せざるを得ない臨床試験プログラムも出てくるでしょうが、パンデミックの新しい現実の中で計画中および進行中の研究を適応させるケースも多いでしょう。多くの企業が従来の臨床試験の実施方法を刷新することのリスクベネフィット分析を再評価する可能性があります。例えば試験設計における対照薬のリアルワールドデータのさらなる活用、また被験者への試験薬の届け方、遠隔モニタリング、および遠隔医療などを臨床試験に導入するなど、革新的なアプローチの試験での使用などが考えられます。

混乱がもたらすイノベーションは、最終的には業界に永続的な利益をもたらす可能性がありますが、急速に変化する環境を切り抜けるには本質的にリスクが伴います。そのため多くの臨床プログラムでは、危機に適応するための積極的な意思決定の結果であれ、予期しない将来の混乱によるものであれ、最終的なデータパッケージに影響が出ることが予測されます。FDAとEMAは、プロトコルを変更する必要があることをある程度理解している一方で、将来規制当局とペイヤーの評価がこれらの相違に対しどのように対応するかは不明です。

著者 タリグ・マグデルディン、コンサルタント、ディアラス ロンドン

タリグはロンドンオフィスを拠点とするコンサルタントであり、競争戦略、ライフサイクル管理、機会と脅威の評価、ポートフォリオ管理の分野で実績を積んできました。ディアラスに入社して以来、オンコロジー、免疫学、神経科学などのさまざまな治療分野にわたって、大手製薬企業の幅広い分野での取り組みを成功させてきました。また、ライフサイクルポートフォリオのあらゆる段階を通じて、クライアントが前立腺がん、乳がん、婦人科がんなど、オンコロジーのさまざまな適応症でグローバルな戦略的イニシアチブを開発するのを支援してきました。深い専門知識を利用して、価値ある指摘と提言を行うソートパートナー(thought partner)として、クライアントの疑問と解決方法を掘り下げます。

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