新型コロナウィルス(COVID-19)が新薬発売に及ぼす影響:製薬会社のジレンマ

米国やEUにおける新薬承認に対する新型コロナウィルス(COVID-19)の影響は?

COVID-19の製薬業界への影響は刻々変容しています。この考察は、2020年4月14日現在の状況に基づいています。

FDA (アメリカ食品医薬品局)、EMA(欧州医薬品庁)はいずれも、日々の通常業務を継続し、諮問会議や委員会のミーティングはバーチャルで実施していく方針などを明らかにしましたが、一方で依然として短期の延期のケースが見られます。FDAは4月・5月に予定されていた会議を6月に先送りし、PDUFA(処方箋薬ユーザーフィー法)の申請審査等関連期日についても変更が発表されました。これらの変更の影響を受ける製品には、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するロシュ社のリスジプラム、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対するインターセプト社のオベチコール酸などがあります。

ロシュ社の経口脊髄筋萎縮症薬リスジプラムについては、5月にFDAの決定が予定されていました。しかし4月7日、同社は、FDAがPDUFAを5月24日から8月24日まで3か月延期したと発表しました。

ノバルティス社の遺伝子治療、ゾルゲンスマとバイオジェンの検証済みのスピンラザがすでに流通していることを考えると、FDAのリソースが逼迫している中で、FDAにとって同薬のレビューの緊急性が低くなる可能性があります。

インターセプト社は、NASHに起因する肝線維症に対するOCA(オベチコール酸)の発売に向けて準備を進めてきましたが、現在先送りを余儀なくされています。

以前は4月22日に予定されていた諮問委員会は、暫定的に6月9日に日程変更、一方PDUFAは6月26日で変更はありません。

FDAはバーチャルでレビューを実施するための複数のオプションを提案していますが、4月13日現在、バーチャル諮問委員会開催の予定は入っていません。一部の申請者は、プレゼンテーションの効果への影響や、双方向性の欠如がレビュー結果に与える影響に配慮し、対面でのレビューを優先し、あえて延期を選択する場合があります。FDAが申請審査を通常のペースで実施できるかについては、さらに疑問が残ります。政府機関の職員は職員同士が長期間会うこともなく、現場視察の出張も制限され、さらにパンデミック関連の行政業務が優先されるため、政府機関からのアウトプットは遅くなる可能性があります。FDAは、公式には、既存のユーザーフィーゴールに特定の影響はないとしていますが、4月–7月間にフィーゴールがある製品(計48製品)は影響を受ける可能性が高いと見られます。

製品 スポンサー PDUFAのゴール期日 適応症
オファツムマブ 2020-06 抗CD20モノクローナル抗体(白血病に対するIV点滴用のアーゼラとして承認済)を、再発型の多発性硬化症(RMS)成人患者治療用として再開発。ペン型注射器を使用して、毎月1回皮下注射で自己注射。
Adlarity(ドネペジル、経皮) 2020-07-30 コリウム社のCorplexテクノロジーを使用したコリンエステラーゼ阻害剤で、週1回の経皮パッチ製剤。軽度、中等度および重度のアルツハイマー病患者のアルツハイマー型認知症の治療薬。
オピカポン* 2020-04-26 選択的カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤。オフ時のエピソードを経験しているパーキンソン病患者へのレボドパ・カルビドパ投与に際しての補助治療薬。1日1回経口投与。
APL-130277(アポモルヒネ舌下フィルム) 2020-05-21 パーキンソン病(PD)患者の運動変動(「オフ」エピソード)のオンデマンド治療にアクエスティブ社の「PharmFilmテクノロジー」(口腔内速崩壊フィルム製剤)を使用したドーパミン作動薬の舌下フィルム製剤
リスディプラム* 2020-05-24 生存運動ニューロン-2(SMN-2)スプライシング修飾剤。脊髄性筋萎縮症(SMA)治療のための経口液剤。
製品 PDUFAのゴール期日 Goal PDFUA Date 適応症
コンテポ(ホスホマイシン) 2020-06-19 静注用エポキシド抗生物質製剤。重症尿路感染症(cUTI患者の治療において使用。投与設計は薬物動態(PK)・薬力学(PD)解析に基づいて最適化。
MenQuadfi(髄膜炎菌ワクチン*) 2020-04-25 2歳以上の患者の髄膜炎菌性髄膜炎予防のための髄膜炎菌(A、C、Y、W型)多糖破傷風トキソイド複合ワクチン
レカルブリオ(レレバクタム、シラスタチン、イミペネム)

2020-06-04 ベータラクタマーゼ阻害剤と抗生物質を組み合わせた製剤を院内感染性細菌性肺炎(HABP)および人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABPの成人患者の治療薬として新たに適応。
製品 スポンサー PDUFAのゴール期日 適応症
サシツズマブゴビテカン*(IMMU-132) 2020-06-02 転移性疾患で少なくとも2種類の前治療歴のある転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC患者の治療のための抗体薬物複合体(ADC)
オプジーボ(ニボルマブ)・ヤーボイ(イピリムマブ) 2020-05-15 フェーズIII CheckMate-227パート1試験に基づき、EGFRまたはALK変異が認められない転移性または再発非小細胞肺癌(NSCLC患者の第一選択治療薬。PD-1チェックポイント阻害薬と低用量のCTLA4阻害薬の組み合わせ。がん免疫療法に基づく投与設計。
Xpovio(セリネクソール) 2020-06-23 経口選択的核外輸送タンパク質阻害剤(SINE)化合物を、2回以上の多剤併用療法の治療歴がある、再発または難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL患者で、CAR-T(キメラ抗原受容体修飾T細胞)治療を含めた幹細胞移植療法に不適格と判断された患者の治療に新たに適応。
リンパルザ(オラパリブ) 2020-05 第一選択のベベバシズマブによるプラチナベースの化学療法に完全または部分的に反応している卵巣癌患者の維持療法に、PARP阻害剤を適応拡大。バシズマブ(ジェネンテック社のアバスチン)と組み合わせて使用。
キイトルーダ (ペムブロリズマブ) 2020-06-29 がん免疫療法PD-1阻害剤を、手術または放射線療法での治癒が困難な再発性または転移性皮膚扁平上皮がん(cSCC患者の治療に新たに適応。

新薬発売の売り上げにどのような影響があるでしょうか?

パンデミックの最中には、医療現場の状況が通常と異なり、また通常行われるプロモーション活動や啓発活動が困難になるため、今後数か月内に発売予定の製品には課題が生じています。主な課題は次のとおりです。

医療従事者に対しての訪問が制限されているため、発売される新製品とその適応症についての啓発活動、または疑問の払拭などを行うことが、より困難になっています。

医療従事者は、パンデミック中は治療患者数が少なくなるため、新たな処方の機会も少なくなります。

医療従事者の意識が別の問題に集中しているため、効果的にメッセージを伝えることは困難です。

患者との直接の面会が制限されているという状況の中で、医療従事者は、現時点で新製品を試すことを躊躇し、リスクを回避しようとする可能性があります。

対面での会議が延期されたり、バーチャル化されるために、主要な医療関係者やステークホルダーとの効果的なコミュニケーションが阻害されます。

特に十分な既存の代替品があるような競争の激しい分野で発売される製品や、マーケティング経験が少なくプロモーション予算が少ない小資本のバイオテック企業の製品が最も深刻な影響を受けます。反対に、致命的な疾患の治療薬で、市場に他の選択肢がほぼ皆無な場合は、発売時の混乱がより少ないと考えられます。いずれにせよ発売時のパフォーマンスがパンデミック以前の期待値に比べて低下する可能性が高く、今後6か月間の投与量の増加はかなり緩やかとなることが予想されます。

新薬発売を計画中、または最近発売した企業はどのように対応していますか?

通常の商業活動や販促活動の混乱に伴い、製薬会社は4月・5月の新薬発売については若干遅らせると思いますが、大半の企業はそれ以上大幅な延期はしないだろうと思われます。というのも、 特許期間は刻々と過ぎていきますし、新薬発売を取り巻く環境に影響を与えている混乱がいつ改善されるかは確実ではないからです。

対面での診断、投与、またはモニタリングが重要な医薬品の場合は、発売時期の延期を考慮する可能性が高いでしょう。同様に、キャッシュフローが安定し財務的安全性で優位な大企業は、発売のタイミングを先へ延ばすことを考慮する余裕があり、販売環境が改善されることが見込めるのなら1四半期か、それ以上遅らせたいと考えることもあり得ます。

具体的な企業の対応振りについて例を挙げると、パンデミックが米国を襲う直前に経口のCGRP片頭痛治療薬のリメゲパントを発売したバイオヘイヴン社はすばやくマーケティング戦術を変更、ウェビナー、遠隔医療、DTC、ソーシャルメディアなどを活用しています。4月7日には、同社は、遠隔診療のCove社との間で、片頭痛患者を通院させるかわりに、リモートでの評価を容易にし、患者がより容易にリメゲパントを入手できるよう、新たなコラボレーションを行うと発表しました。ただし、これらの取り組みにもかかわらず、最近の調査では、神経科医が患者の片頭痛治療の投与設計変更に躊躇しており、これまで投与経験がないことが理由でリメゲパントを利用しない可能性が高いことが指摘されています。

対照的に、BMS社は再発性多発性硬化症の治療薬、オザニモドの発売を遅らせる決定をしました。この決定により、新薬発売の市場へのインパクトを最大化させるのがより容易になるかもしれませんが、同時にノバルティス社のジレニアやメイゼントなど、MS市場における既存の治療薬に競争に備える時間を十分に提供する事にもなります。

結論

COVID-19パンデミックの影響により、数か月にわたって発売計画が打撃を受け、手続きが複雑化し、遅延が生じ、新製品の販売促進と啓発活動の機会が大幅に制限されました。デジタルおよびバーチャルな新発売戦略への投資は、興味深いイノベーションを生み出す可能性がありますが、対面ルートに完全に取って替わることはないでしょう。KOLと処方医師の関与へのこのような制約に加え、医療行為の混乱が続くと関心が薄れ、最も革新的な新薬でない限り、新薬発売のパフォーマンスを最適化するのは困難でしょう。多くの新製品がパンデミック後に再発売を試みると予想されますが、そのような戦略が成功するかどうかは具体的にどのような競争力学が働いているかにかかっています。

一方、FDAは通常の、または承認前医薬品製造施設の査察を4月まで延期すると通告、そのため、サプライチェーンの安定性と国内外の製薬会社の製造見通しについても疑問が残ります。ディアラスは今後、バイオ医薬品業界へのCOVID-19の影響について、サプライチェーンの安定性、製造上の制約とAPI、賦形剤、完成医薬品の出荷が、企業、ペイヤー、HCPそして患者にどのように影響するかを評価していく予定です。

Jonas Pedersén, Non-Executive Director of Deallus

著者 ルーク・バーステン、シニアアソシエイト、ディアラス ニューヨーク

2018年にディアラス入社以来、がん免疫療法、NASH、感染症治療分野で積極的に研究活動を行っており、定期的に同領域に関する自身の知見を使ってクライアントの戦略の価値を高めています。

グローバル企業のステークホルダーがパイプライン、製品、およびポートフォリオに関する主要な競合対策の準備を行う際に、ルークは戦略的評価を実施し、オンコロジー、代謝、および抗感染治療などの領域において、最新のR&D成果がどのような機会を創出するかとの文脈から読み解き、サポートします。慢性疾患と感染症の両領域で固有の基礎科学、公衆衛生、および規制ポリシーに関する深い知識と幅広い知識を備え、さまざまな状況で競争力をさらに高めたいクライアントに価値のある提言をします。ルークはイェール大学で疫学のMPHを、シカゴ大学で微生物学の学士号を取得しています。

Lisa Kent Deallus Senior Associate

著者 リチャ・シャーマ、アソシエイトコンサルタント、ディアラス ニューヨーク

リチャはニューヨークオフィスを拠点とするアソシエイトコンサルタントであり、競争戦略、製品・ポートフォリオ管理、機会評価、ブランドプラニングワークショップなどの実績があります。ディアラスでは、オンコロジー、免疫学、神経科学、ウーマンズヘルスなどのさまざまな病状にわたって経験を積み重ねてきました。具体的には、ADCI-OCAR-Tなどのモダリティにまたがる乳がん、消化管がん、泌尿生殖器がん、肺がん、メラノーマなど、複数のがん適応症に関する専門知識を構築しています。リチャは、クライアントの「泣きどころ」を理解し、製品・ポートフォリオ戦略の形成に役立つ貴重な洞察を提供することに意欲的です。

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Julie Munch Khan – Deallus Chief Commercial Officer

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